金沢市「養サポ」事業 立案担当者のつぶやき⑪【ADRへの橋渡しの仕方(1)】
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今回と次回は、少し趣向を変えて、私が親の法律相談を受けている立場から、「どうやって相談者に実際にADRを利用していただくか」について、工夫という程ではないが、雑感を記してみたい。
(1)「父母間である程度コミュニケーションが取れているか」の確認
前回述べたように、ADRは、①平日夜間や土日休日に調停人を介して話合いができるADR機関もある【利便性】、②必要以上に事を荒立てなくて済む可能性がある【穏当性】、③事件を代理人弁護士に依頼するよりも安い【安価性】、④専門家である調停人から意見を聞ける【専門性】といった点にメリットがある。
こうしたメリットに興味を示す相談者は意外と多く、また客観的に見ても、複雑困難とは言えない事案で、予想される争点も養育費と預金の財産分与くらいであるなど、ADRで解決を目指すのが良いのではないかと思われる事案も少なくない。
こうした相談者と事案に出くわした場合、アドバイスする側としては、ADRという選択肢が頭に浮かぶこととなる(肌感覚になるが、大体、相談者3~4人に対し1人くらいは、ADRが向いているかもしれないと感じながら、相談対応を行っている)。
しかし、ハードルとしてあるのが、その父母がある程度(かつ、できれば冷静に)コミュニケーションを取ることができているか(少なくとも、これから離婚や養育費のことについてコミュニケーションを取ることができそうか)という点である。
ADRは任意の手続であるので、これを利用するかどうかは父母双方にとって完全に自由である。
したがって、ADRという手続を利用して話し合うことについて、父母間で(最低限の)協力関係が築けないと、結果としてADR手続は利用できない(開始できない)ことになってしまう。
こうした任意性と自由さが、たとえ話合いがまとまらなくても結論が下される家庭裁判所での手続(及び家庭裁判所を利用する代理人弁護士)と大きく異なるADRの特徴である。
以上のことがあるので、アドバイスする側としては、現在の父母間のコミュニケーションの状況や内容、どんな手段を用いて父母間でやりとりしているのか等について、詳しく聴いていくことになる。
そしてその結果、例えば、
- 相手と直接やりとりができず、親族が間に入っている
- 相手とやりとりは一応あるが、相手は頑として考えを変えず一方的に条件を押し付けてくる
- 相手とは長い間没交渉状態
といった事情があると、ADRは難しいかもしれないなと考え、家庭裁判所や代理人弁護士を案内することがある。
反対に、
- 他の離婚条件は概ね合意に達したのだが、養育費の金額のところだけ交渉が平行線を辿っている
- 相手と直接話し合って最近別居したところである。これから離婚に向けた話し合いがしたい
などといった事情があると、ADRを解決手段の第一候補となり得ると頭に置いた上で、さらに、相談者から事情や希望を聴いていくことになる。