金沢市「養サポ」事業 立案担当者のつぶやき⑫【ADRへの橋渡しの仕方(2)】
法律相談を行い、ADRを利用してみようと考える親、ADRに向いていそうな事案であったとして、相談を受けた側が次にすべきアドバイスは何だろうか?
答えは、相談者(及びその相手)のニーズに合いそうなADR機関を具体的に紹介することであると考えている。
現在、日本には、極めて多数のADR実施機関が存在している。家庭裁判所のように管轄もないから、全国の民間ADR機関を利用することが可能なのだが、これがかえって利用者にとって分かりにくい制度となっていることは否めない。選択肢が多すぎるというのも困りものである。
さらに、ADR機関ごとにサービス内容や手続の進め方、料金体系も異なるため、利用者が自力で自分に合いそうなADR機関を見つけてくるのを一層難しくしている。
そこで、相談を受ける側は、相談者のニーズに合いそうなADR機関を紹介する必要性がどうしても出てくるのである。
具体的に言うと、例えば、
- 相手と話し合いたいテーマが沢山あり、かつ相手とニュアンスを含めたやりとりをじっくりしたいと考えている場合(あるいは、アドバイスをする側から見てそのような事案であると考えた場合)は、家庭裁判所の調停並みに充実した話合いのサービスを提供していることに強みがあるADR機関を、
- 逆に、とにかく簡易迅速に養育費だけを決めたいと考える場合は、相談者、相手方、調停人三者が原則としてテキスト(チャット機能)を用いて調停を行うこととしているADR機関を
紹介するといった具合である。
それだけでなく、実際には、具体的な利用方法(申立ての仕方)についても、アドバイスすることも多い。とあるADR機関はWebフォーマットで申立てを行うようになっていたり、別のADR機関はLINEで友達登録をした上で申立てを行うという流れになっていたりするので、相談者と一緒にパソコンや携帯の画面を見ながら説明していく。
また、相談者がいきなり一人で申立てをするのは不安であるとか、もう少しサービス内容などを確かめてみてから考えたいといったケースもある。このように、相談者が申立てを予定しているADR機関に直接相談をしてみたいということであれば、同様に、そのADR機関の相談窓口(実際には、URLやLINEのリッチメニューのメニューボタンがある場所など)を案内することとなる。
さらに、私がもう1つ重要だと考え相談の現場で留意するようにしているのが、相手にいかにしてこのADR機関での話合いのテーブルに着いてもらえるように持ち掛けていくか(段取りの整え)である。
- 私はなぜ敢えてADRという手続であなたと話合いをしたいと考えたのか
- このADR機関で話合いを行うことについてお互いにどんなメリットがあるのか
- 私はメリットがあると考えたけれども、あなたもメリットを感じたなら、ここで話を進めてみないか
というようなメッセージを直接相手に伝えたり、相手方にADR機関から送付(送信)されることとなる申立書の中に盛り込んだりすると、こちらの考えが相手に伝わって良いですよ、スムーズにADRを始めることができる可能性が高まると思いますよ、といった案内をするようにしている。
少し長くなってしまったが、自治体での法律(養育費)相談において、ADRへの橋渡しをするために現在取り組んでいることは大体以上のようなものとなる。
今後も試行錯誤を続けていくが、大前提として、相談に乗っている私たち自身が、ADRのこと、養育費や家事事件に強い民間ADR機関のことを知り、各ADR機関のサービス、手続の進め方、料金体系等について理解を深め、キャッチアップしていくことが必須であることは間違いない。