金沢市「養サポ」事業 立案担当者のつぶやき⑨【具体的な支援(助成)(2) 債務名義取得費用】

2024年05月23日

続いて、「債務名義取得費用(公証役場や家庭裁判所等に納める費用)の助成」について解説する。

予め断っておくと、今回及びその後に続く、ADR利用料の助成、弁護士着手金・報酬金助成の各解説は、性質上、細かくて、専門的かつ実務的な領域に軸足を置いて書いていくことになる。このため、やや、弁護士等の専門家向けの記事となることをご容赦いただきたい。

「養サポの債務名義取得費用助成とは?」

文字通り、養育費の取り決め・変更に係る債務名義(強制執行を行う際の申立てで必要になる文書)を取得した場合にその費用を助成するものである。公正証書、(家事)調停調書がその代表例である。

債務名義の取得という「出口」と助成が結びついているだけであり、状況や文脈は問わない。すなわち、養育費を初めて取り決める場合、口頭・私的文書での合意を債務名義化する場合、養育費を変更する場合、不払いとなった養育費を(強制執行手続ではなく)家事調停を用いて再度請求する場合等、いずれであっても、(新たな)債務名義さえ取得できれば助成を受けられる

「認証ADR機関で成立した特定和解」

2024年4月1日から債務名義の一類型に加わった特定和解(民事執行法22条6号の5、ADR法2条5号)について、民事執行をするためには、別途、予め裁判所の執行決定を受ける必要がある(同法27条の2第1項)。

その意味で、認証ADR機関で成立した特定和解は「半人前」の債務名義であり、公正証書や調停調書とは差がある。養サポでは、この差分を埋めて「完全な」債務名義にするための費用(執行決定を得るための費用)も助成している。


「強制執行準備費用(一部)の助成」

養サポの債務名義取得費用助成の(地味ではあるが)大きな特長として、債務名義の取得と合わせて、執行文及び送達(確定)証明書を取得した場合の費用も助成する点が挙げられる。

その「狙い」、「込めた意味」は2つある。

1つは、強制執行の実費助成制度の代わりという意味合いである。他の自治体では、養育費債権の強制執行手続で要する実費そのものを助成している例があるが(藤沢市、茅ケ崎市等)、残念ながら、金沢市養サポではそこまでは(まだ)実現できなかった。その代替として、債務名義と合わせて、強制執行手続で必要となる、執行文と送達(確定)証明書の取得に要する費用を助成することとした。

もう1つは、「どうせ債務名義を取得するなら完璧なものを」という意味を込めた。裁判所にもよるが、特に、調停調書正本の送達については、当事者が積極的に求めないと行われず、謄本の交付で済まされてしまう場合がある。この場合、不払いが生じて強制執行手続(給与差押、預金差押等)を行おうとしても、家庭裁判所で正本の送達手続から始めなければならないため、相手に強制執行を感づかれて、財産を隠匿等する機会を与えることに繋がりかねない。こうした事態を防ぐために、養サポでは、債務名義を作成した段階での送達までおせっかいしようと考えたのである。

ちなみに、上記の特定和解に執行決定を付すための地方裁判所での手続(執行決定申立手続)では、口頭弁論or双方審尋が必要的であるとされている(ADR法27条の2第12項)。したがって、特定和解の成立を受けて、早期に執行決定を受けておかないと、後日(例えば、数年後など)、強制執行をしようとする手前の段階で、再び相手を手続(執行決定申立手続)に巻き込むことになる。その結果、相手に財産隠しをするきっかけを与えてしまうことになる。

なので、養サポでは、特定和解についても早期に「完全な」債務名義にすることを後押ししている。


「養育費関連費用に絞って助成するという問題(費用の割り付けの問題)」

債務名義費用取得実費だけに関わる問題ではないが、養サポでは、養育費の確保に要した費用のみを助成するという一般ルールがあるので、ここで触れておく。

主に、離婚事件で養育費を取り決めた場合が問題となる。

考え方としては比較的シンプルであり、養育費部分を括り出せる費用はそれに限って助成するが、括り出せないもの(共通費用)は、養育費以外の請求・合意・取り決めがなかったとしても要するものなので、その全部を養育費の確保に要した費用と考えて全額助成する方針である。

少し具体的に見ておこう。


(離婚給付契約等公正証書)

  • 公証人手数料:養育費にかかる部分(最長10年分の養育費を基礎として算定される金額)とそれ以外の部分を区分することが可能なので、養育費にかかる部分のみを助成する。
  • それ以外の費用:全て共通費用となると考えられるので、全額助成する。


(離婚調停調書)

養育費調停と違い、子の人数によらず、申立印紙代は1200円で固定されている。したがって、養育費部分として括り出すことができる費用はなく(申立印紙以外の費用もそうなるだろう。)、全て共通費用になると考えられる。よって、全額助成する。


非常にマニアックな内容となってしまったが、養サポの債務名義取得費用の助成についての解説は以上である。